『片腕』(昭和三十八年八月-三十九年一月『新潮』)は、『眠れる美女』とともに、川端康成の末期の代表作として挙げられる作品である。また、『片腕』は『眠れる美女』(昭和三十五年一月-三十六年十一月『新潮』)と執筆時期が近いこともあり、『眠れる美女』の流れの作品だとか老人文学だとかで、両作品はセットで取り上げられる傾向が強い。それで『片腕』だけの作品論が少ないのも事実である。それにもかかわらず『片腕』が川端文学で重要な作品だと言われているのは何故だろう。大変興味深いことである。その答えを見つけるためには作品解釈をはじめ、戦争を巡る時代変化、川端自身の身の回りの出来事など、様々な観点から総合的に考察していく必要があるだろう。そこで、その第一歩として今回は『片腕』を取り上げ、メタファーとしての〈片腕〉を中心に考察してみることにする。