小尾十三の小説「登攀」は主人公の教師である北原が、特に目を掛けている朝鮮人の教え子である安原壽善を立派な皇国臣民として導こうとする過程が描かれている。その内容が時局的基準からが選考基準で最も重要視されていた1944年8月第19回芥川賞を受賞した大きな理由であった。しかし、それはあくまでも安原壽善を立派な皇国臣民として導こうとする過程が描かれているだけであって、彼が日本人として立派な皇国臣民となったか北原の導きが結果として成功したのかといえば、そうとは言えない。むしろ朝鮮人青年の皇国臣民化とその先の内鮮一体化への困難を記した作品であると読めてしまうのである。内鮮一体という言葉に込められた論理を当時の状況から分析をした。