注意集中仮説では,ストレス刺激目撃時に注意が中心領域に集中するため記憶成績が促進されるが,周辺領域に対しては注意が向けられないため記憶成績が抑制されると仮定している。しかし,中心領域に注意が集中しているかの検討は行われていない。そこで,本件研究ではストレス刺激暴露時の参加者の視線運動を測定し,記憶成績との関連性について検討することを目的とした。参加者をストレス条件(n=13)と中性条件(n=14)にランダムに配置し,5枚の写真を順次呈示した。このうち3枚目がターゲットとなる写真刺激であり,残りの4枚は風景写真であった。ストレス条件のターゲット刺激として女性がケガをして血を流している写真を呈示し,中性条件では血を取り除いた写真を呈示した。写真呈示中に視線運動を測定した。写真呈示後にターゲット刺激に関する再認テストに回答させた。分析の結果,ストレス条件では周辺領域よりも中心領域の再認成績が優れることが分かった。また,ストレス条件では中心領域に対する注視時間が周辺領域に対する注視時間よりも長いことが示された。しかし,再認成績と注視時間の相関は認められなかった。これらのことから,ストレス刺激の中心領域に注意が向けられる結果,記憶成績が促進すると仮定する注意集中仮説は支持されなかった。