2006年に,高齢者並びに障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律,通称「バリアフリー新法」が施行され,高齢並びに障害者等の移動,施設の利用における利便性と安全性の向上はかなり改善されてきた。しかしながら,都心から離れた郊外地区には未だに多くの段差があり,車椅子での移動の障害になっているのが現状である。また,都心部においても,電車床面とホームとの段差障害がある。従来の段差越え車椅子には種々のものがあるa。前輪駆動標準型のものsは,駆動輪が大径であることから後輪駆動標準型のものより高い段差を越えるが,原理的に車椅子の転回操縦性は著しく低い。そり型のものdは,構造が比較的簡単な特徴を持つが,段差越えの力学的原理がすべり摩擦であることから,高い段差は乗り越えられないという欠陥がある。パワーアシスト方式の段差越え装置搭載型のものfは,モータ・油圧駆動型と介助者操作型があるが,何れも装置が大掛かりで高価なものとなる欠陥がある。とくに後者の場合は,ユーザーが単独では行動できないという制約を伴う。本報は,車椅子ユーザーが高段差を自力で乗り越えることが可能な補助輪搭載の後輪駆動標準型車椅子に関する段差越えの基礎理論及び礎実験を内容とする。