宝暦二(一七五二)年頃に完成された『統道真伝』は、『自然真営道』と並ぶ安藤昌益の代表的な著作であり、「糺聖失」「糺仏失」「人倫巻」「禽獣巻」「万国巻」の五分冊から成り立っている。小論は、その第二冊をなす「糺仏失」を考察の対象にした。
「糺仏失」は、前の「糺聖失」と合わせて一組のものとなっており、昌益の聖釈打倒の思想を最も先鋭に表したものであるが、両者の性格は大きく異なる。「糺聖失」が権力の体現者としての聖人を徹底的に糾弾する経世論・政治論であったのに対し、この「糺仏失」は特に食と性を基軸にした仏教批判を展開しており、より根源的且つ唯物論的な人間論・人生論の様相を帯びている。