種類博士論文
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2060 年には、日本の人口の約2.5 人に1 人が高齢者になると予測されており、地域住民を含む多様な関係者・組織・施設間のヒューマン・ネットワークに基づく、持続可能な連携・協働システムの構築が喫緊の課題となっている。しかし、多くの自治体では、こうしたシステムの担い手が不足し、サービス提供が困難となるなど、地域包括ケアシステムの運用に関する課題は尽きない。そこで本研究では、地域包括ケアシステムにおける協働連携の課題を明らかにすることを目的とする。特に、地域間格差によるサービスの質是正に関する指摘を受けて、都市部と農村部における専門職の役割と連携のあり方に着目する。 第1 章では、地域包括ケアシステムの政策的背景と現代的課題について文献検討を行い本研究の課題設定と分析視角を明確化した。第2 章では、調査方法と用語の定義を示し、研究の枠組みを整理した。第3 章では、都市部および農村部の専門職の語りをテキストマイニングにより分析し、協働連携の実態を明らかにした。第4 章では、両地域の比較を通じて、地域包括ケアシステムに関する協働連携の課題を明らかにした。 分析の結果、都市部ではインフォーマルサービスの担い手不足や行政の縦割り構造による情報の一方通行、施設不足といった課題が顕在化していた。一方、農村部では、専門職や社会資源の不足、交通の利便性の低さ、地域活動の衰退、学習機会の乏しさなど、複合的な課題が明らかとなった。また、介護力の脆弱性から、入所施設等における長期療養を望む高齢者とその家族が多く、多様なサービスが要求されていた。 このことから、都市部では専門職の数と対象者ニーズの量的不均衡が生じている他、量的不足は、研修や勉強会の開催を阻むという悪循環にも至り、専門職の質の低下を招くことが示唆された。農村部においては、そもそも専門職が少ない上に事業所の不足もあり、各専門職が役割を広げ、対応せざるを得ない実態が示された。 以上より、都市部では制度やサービスはあるが専門職の絶対的な量的不足と考察され、農村部においては、施設の不足による制度の空洞化、ならびに人的資源の不足によるサービスの質低下が深刻である。これらの要因は、専門職の質や機能の向上を目指す協働連携の取り組みにおいても、十分に補いきれない課題として浮かび上がっている。 本研究において、地域包括ケアシステムの運用の土台となる「地域」について、都市部と農村部から捉え比較検討した。結果、「地域」の多様性が明らかとなり、同一対応で解決できる課題ではないことが確認できた。今後の研究において、多様な地域に必要な専門職における協働連携のあり方について、言及していきたい。
作成者 : 古賀 聖典 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
本論文の目的は、行政の不妊支援に携わる看護職者および不妊女性の視点から行政の不妊支援の意義と課題を明らかにすることである。 本論文は3 章の構成である。まず第1章では、不妊を取り巻く現状と行政の不妊支援に関する研究視角として、特に「不妊の心理的特徴および対処」「不妊支援」「不妊専門相談センターを中心に据えた行政の不妊支援」に関する文献の検討を行い、本研究の課題と分析の視点を焦点化した。第2 章第1 節では、不妊専門相談センターにおいて不妊支援に携わる看護職者が捉える行政の不妊支援の意義を明らかにした。第2 章第2 節では、不妊女性を対象に研究を行い、行政の不妊支援における不妊女性の認識と利用について現状と関連を明らかにした。第3 章では、看護職者および不妊女性の視点をもとに行政の不妊支援の意義と課題について得た知見を概観し、行政の不妊支援の意義と課題について論じ、本研究の結論および限界と今後の課題について述べた。 看護職者の視点から、行政の不妊支援の意義には、【医療機関の不妊支援を補うことができる】【心理的支援を提供できる】【不妊に関する幅広い相談に対応できる】の3 つの意義があることがわかった。しかし行政の不妊支援を認知している不妊女性は31.1%、利用したことがある不妊女性は16.3%にとどまった。このように行政の不妊支援の認知率・利用率は低いものの、行政の不妊支援の満足度は高く、有効な支援であることが明らかになった。また医療機関と行政、両者の不妊支援を受けた者の67.5%が、どちらか一つの支援のみを利用するより支援効果が高かったと評価した。 不妊専門相談センターを中心とした行政の不妊支援は、医療機関とは異なった場や機能を持ち、不妊症という医学的な意味合いだけで捉えず、個々の人生の悩みや選択に寄り添うことができる意義がある。また、行政の不妊支援は、問題解決のための情報や知識と情緒・心理的サポートの両方がバランスよく提供される充実した支援体制を備えていることが挙がり、そのことが行政の不妊支援を利用する不妊女性にとっての満足感につながると考える。 行政の不妊支援の課題としては、まず行政の不妊支援に携わる看護職者など専門職者が、各自治体の不妊支援環境を整え、支援スキルの向上を図る必要がある。そして行政の不妊支援の意義を正しく広報・周知していくことで、行政の不妊支援における不妊女性の認識と利用を高めていく。さらに医療機関と行政との連携・協働、自治体間の連携・協働等を図ることで、行政の不妊支援の課題を解決することが重要であると考察した。 行政の不妊支援は意義があるにもかかわらず、不妊女性の認識と利用率は低かった。そこに着目して、行政の不妊支援に携わる看護職者および不妊女性の視点から行政の不妊支援の意義と課題を明らかにしたことは社会的意義が大きい。
作成者 : 石村 美由紀 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
関節リウマチは、慢性の多発性関節炎を主症状とする全身性の炎症疾患であり、その治療目標は、疾患活動性の低下および関節破壊の進行抑制である.疾患活動性や関節構造の状態に応じた運動療法は、患者のQOL の最大化と生命予後の改善に重要な役割を果たすと考えられている.本研究は、運動療法の中でも特に在宅運動療法に着目して、その実施の現状並びにその実施要因を明らかにすることで、在宅運動療法の支援の在り方を検討することを目指すものである. 第1 章では、本研究の背景について述べる.すなわち、関節リウマチの症状と治療、運動療法の役割、在宅運動療法の必要性、関節リウマチ患者並びにその他の慢性疾患患者への支援について論じる.これらを踏まえて、本研究の目的を、関節リウマチ患者における在宅運動療法の現状とその実施要因を明らかにし、その上で支援の在り方を検討することと設定した. 第2章では、関節リウマチ患者の在宅運動療法が行われている現状を明らかにする調査研究ついて述べる.A 県在住の関節リウマチ患者を対象としたアンケート調査を実施し、得られた226名の回答を分析した.その結果、「在宅運動療法がリウマチ患者に勧められていること」を知っている患者は35.4%で半数にも満たないことが明らかになった.一方で、在宅で行える運動療法に一定の効果があると思っている患者は93.7%、在宅で行える運動療法が必要であると考えている患者が91.4%であり、多くの患者の在宅運動療法への知識・関心は高かった. 第3章では、在宅運動療法の実施に影響する要因を明らかにする調査研究ついて述べる.A 県在住の関節リウマチ患者を対象としたアンケート調査を実施し、得られた回答から在宅運動療法実施群(n=94)と非実施群(n=132)の2 群に分けて、比較分析した.多変量解析の結果、年齢が高いこと、裁量度が高い職業であること、注射治療を受けていること、医師が在宅運動療法を勧めていることの4 因子が在宅運動療法の実施に有意に影響する要因として明らかになった.また、疼痛を感じている患者や寛解していない患者が、「痛くならない程度に体調に合わせて行っている」ことも示唆された. 第4章では、関節リウマチ患者の在宅運動療法に関する支援の在り方について考察する.第2章と第3章で得られた知見に基づき、在宅運動療法実施の支援に関する重要な視点として、患者教育、セルフケア支援と多職種連携での支援の3 点を掲げて、在宅運動療法支援の在り方を論じた.最後に、本研究の知見を踏まえ、関節リウマチ患者が在宅運動療法を重要なセルフケアの一つとして捉えて主体的に取り組むことができるような支援の在り方が重要であると結論した.
作成者 : 加茂 尚子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
定年退職後の看護師、いわゆるセカンドキャリアナース(以下、SCNとする)の活用が推進されている。SCNの看護は豊かであると言われるが、臨床対応能力等については心配されるという課題もある。しかし、SCNの看護の内実を具体的に可視化したものはなく、先の課題の回答が先送りされている。そこで、SCNの卓越した看護の具体的な内容を明らかにすることを目的に本研究に取り組んだ。 SCN の卓越性を具体的にするために、先行研究から卓越した看護の具体的な内容を抽出した。この看護内容を卓越した看護の構成要素と捉え、「卓越した看護の6 つの領域と19 の構成要素」として概念化を図った。これらの概念からSCN の卓越した看護への認識が測定できるアンケート調査表を独自に作成し、SCN(以下、SCN 群)と現役看護師(以下、現役群)の2 群に調査を行った。 アンケート調査の分析対象数はSCN 群84 名、現役群199 名であった。SCN の卓越した看護への認識を卓越性得点として、2 群それぞれで分析した。結果、現役群においては、各年代の卓越性得点の平均値は、年代が高くなるにつれ上昇する傾向にあった。さらに、現役群の卓越性得点が概念通りの回答を得ているか確認をするため因子分析を行った。結果「看護職へのアイデンティティ」、「卓越した看護実践力」、「ケアリング行動」の3 つの因子が生成された。 3 つの因子合計得点の平均値の差を各年代で多重比較した結果、「卓越した看護実践力」と「ケアリング行動」の20 代と50 代、30 代と50 代で有意な差があった。このように、現役群のSCN の卓越性の捉え方に年代差が生じる理由について、経験の浅い看護師は他者に意識が向きづらくSCN の看護が見えない傾向にあるが、40 代、50 代と経験を積むことで、SCN と相互交流を図り、可視化できる看護実践を捉え、SCN の卓越した看護を理解できるようになると考えられた。 SCN 群の卓越性得点は、SCN 群の年齢、経験年数、SCN 歴、定年前の職位、現在の職場、勤務形態の外部要因との関連を分析した。結果、どの属性も卓越性得点に有意な差はみられなかった。このように、SCN 群の卓越性得点がこれらの外部要因に影響されないのは、SCNの看護は誰かに強制されたものではなく、看護への興味や看護が好きといった肯定的感情、他者への関心といったSCN に内在している「看護職へのアイデンティティ」が影響していると考えられた。 以上のことから、本研究で明らかになったSCNの卓越した看護の具体的な内容は「卓越した看護実践力」、「ケアリング行動」の可視化できる看護と、セカンドキャリアナースに内在する「看護職へのアイデンティティ」の3つであった。SCNの「看護職へのアイデンティティ」には定年退職をしてもなお、一心に看護に向き合おうとする看護への思いがあり、それはSCN自身の看護経験と人生経験がもたらすオリジナルな看護であると言え、これがSCNの卓越性であると示唆された。
作成者 : 露繁 巧江 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
本研究は、山口県で収穫されたアカモクの食品特性や機能性を多角的に明らかにすることを目的とし、アカモクを加工した際の食品特性や機能性の変化、そして市販アカモク加工品を摂取した際の機能性について検討した。 食品特性については、茹で加工条件や乾燥法、水戻し温度条件の違いによるアカモクの物性および色差に着目した。その結果、茹で加工条件では、90℃ 3 分、5 分といった長めの茹で加工は、物性や色の観点からは適さないことが明らかとなった。乾燥方法では、凍結乾燥で粘性が強化されることや、緑色の保持が顕著であることが確認されたことから、凍結乾燥法が粘性や色の保持において有用であることが示唆された。 機能性の変化については、茹で加工条件によるアカモクの抗酸化性の変化に焦点を当て、産地と収穫時期が異なる2 種類のアカモクを用いて総ポリフェノール量およびDPPH ラジカル捕捉能を測定した。その結果、生アカモクは加工済みアカモクに比べてポリフェノール量およびDPPH ラジカル捕捉能が高いことが明らかとなった。また、茹で加工温度については、60℃で茹でた場合の方が90℃で茹でた場合よりもポリフェノール量や抗酸化性にばらつきが少なく、低温での加工が抗酸化性を保持する上で有効である可能性が示された。さらに、総ポリフェノール量とDPPH ラジカル捕捉能との間には正の相関が見られ、ポリフェノールが抗酸化性に重要な役割を果たしていると推察された。 市販アカモク加工品を摂取した際の機能性については、市販の茹で加工済みアカモクやこれに電子レンジ加熱処理を施し粘性を低減させた加熱アカモクを、米飯とともに摂取することが食後の血糖動態に及ぼす影響について調べた。基本食、基本食に市販の加工済みアカモクを加えたアカモク食、加熱アカモクを加えた加熱アカモク食の3 種類の試験食を用い、健康な成人男女を対象に血糖動態を測定した結果、アカモクもしくは加熱アカモクの摂取は食後最大血糖値、血糖上昇値、血糖上昇時間、血糖上昇速度を低下させる作用を持つ一方、血糖下降時間および血糖値曲線下面積を低下させる作用は認められないことが示唆された。したがって、アカモクや加熱アカモクの摂取は食後血糖値の上昇を抑制する働きがあるものの、体内に吸収される糖質量は抑制されず、栄養素の吸収を阻害しないと考えられた。 本研究で得られた知見は、アカモクの特性や機能性に関する理解を深め、消費者に対してアカモクの利用を促進する一助になると考えられる。さらに、アカモクの消費が拡大すれば、地域漁業や漁村の活性化、6 次産業化の取り組みへの貢献が期待される。以上のことから、今後の食品産業におけるアカモクの応用が期待される。
作成者 : 齋藤 義之 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
児童養護施設では、子どもの権利保障の観点から、早期の家庭復帰の推進が求められている。現在、児童養護施設には、子どもの円滑な家庭復帰を支援する家庭支援専門相談員が配置されている。家庭復帰支援においては、高度な専門性に基づいたソーシャルワークの展開が求められる。しかし、子どもの家庭復帰に向けたソーシャルワークを展開するうえでの専門性は十分に確立されているとは言えない状況がある。そこで、本研究では、家庭支援専門相談員の子どもの家庭復帰に向けたソーシャルワーク展開上の専門性を明らかにすることを目的とした。 第1 章では、先行研究のレビューから、家庭支援専門相談員の独自の機能やソーシャルワークの展開方法などの理論を確立し、現状における支援の成果や課題等を検証しながらその専門性を明らかにすることが必要であることを述べた。第2 章では、研究の目的と用語の定義について述べた。第3 章では、家庭支援専門相談員を対象にインタビュー調査を行い、子どもの家庭復帰に向けたソーシャルワーク展開上の要因及び要因間の関連性についての仮説モデルを生成した。第4 章では、家庭支援専門相談員を対象に質問紙調査を行い、第3 章で生成した仮説モデルを共分散構造分析により検討し、家庭支援専門相談員が行う子どもの家庭復帰に向けたソーシャルワーク展開上の専門性についての知見を述べた。第5 章では、まとめを述べた。 家庭支援専門相談員が行う子どもの家庭復帰に向けたソーシャルワークの展開は、子どもの最善の利益を第一とする認識を起点に、具体的な支援行動としての「アセスメント・プランニング」「子どもや保護者への支援」「施設内外の連携」「家庭復帰の評価・見極め」へと展開していることが明らかとなった。その中で特に、「保護者に対する支援」と「児童相談所との連携」は、ソーシャルワーク展開上の専門性として抽出された。しかし、ソーシャルワークを展開する要因間の検討において、ソーシャルワーク展開上の「家庭復帰の評価・見極め」は、「専門職としての意識」から直接の影響を強く受けていた。このことから、「保護者に対する支援」と「児童相談所との連携」の専門性は、十分に発揮されていないことが推察された。
作成者 : 山根 千絵 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
本論文は、乳幼児期の第一子育児中の母親に対するロールレタリング以下(RLと略する)の効果を明らかにすることを研究目的とした。 乳幼児期の第一子を育てている母親は、特有の育児不安を持つといわれ、精神的に不安定になりやすい。国も産後ケア事業など、育児中の母親への支援の仕組みを整えているが、その多くが母親自身で出向いて支援を求めていかなくてはならないものである。子育て中の母親は、子どもの世話のために、自由に外出できないことを考えると、母親が活用しやすい支援の方法を検討する必要がある。その支援の方法として RL に着目した。 RL は、役割交換書簡法といわれ、自分自らが自己と他者という両方の視点に立ち、役割を交換して手紙を書くものである。この往復 の書簡を自分自身で行うことで、自身の内省を促すとともに、相手の立場になることで、新しい視点から自分を見つめ、自己及び他者理解が促進され、自己を受容していくものである。この RL を、第一子育児中の母親に活用し、その効果が明らかになれば子育て支援のツールとして活用できると考え、本研究に着手した。 本論文は全4章の構成である。第1章では、第一子育児中の母親を取り巻く現状と課題について、育児中の母親への支援に関する文献検討、並びにRLに関する文献検討を行い、本研究の意義と目的を示した。第2章では、就園前の第一子育児中の母親6名に対しRLを3回実施した後、半構造化面接を行い、得たデータをKJ法により分析し、RLの効果を構造化した。また、RLに書かれた手紙の記述内容の変化を検討した。第3章では、0歳児の第一子育児中の母親26名に対し、RL3回実施群と対照群におけるランダム化比較対照試験からRLの効果の検証を行った。また、第2章と同様に、RLに書かれた手紙の記述内容の変化を検討した。第4章では、第2章、第3章で得られた知見から、乳幼児期の第一子育児中の母親に対するRLの効果について総合考察を行った。 これらの研究の結果をまとめると、乳幼児期の第一子育児中の母親が、自己と他者である子どもとの往復の書簡であるRLを3回繰り返すことによるRLの効果は、手紙の相手である子どもに向かって制限を設けず自由に書くため、自己の感情を素直に表出することから自然と自分らしさを肯定できる。また、返信で子どもの立場に立って書くことにより、子どもの目線から、子どもの気持ちに気づくことができる。こうした営みは、子どもへの気持ちの肯定的感情の高まりや、母親自身の状態自尊感情の高まりにつながる。そうした感情の変化は、第一子を抱える母親にとって、自身の育児を認めることや、自信となる。そうした自信は、母親が親子の交流の場や、保健師などの相談の場に出向くといった外界と繋がる意欲と行動の変容につながる可能性があることが示唆された。
作成者 : 榮田 絹代 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科
本研究は,鶏肉類のフードチェーン各段階における病原微生物の汚染実態の調査を実施し,食中毒リスクの解明と低減策の検討を行った. 流通段階における調査により,山口県内の市販鶏肉類の35.7%からカンピロバクターが分離され,レバー等の特定の部位や夏季の汚染率が高いといった実態が明らかになった.また,mP-BIT法による分離株の遺伝子型別により,病原性関連遺伝子を保有する菌などが確認されるとともに,感染症治療の難渋化が懸念されるフルオロキノロン系耐性菌の汚染も確認された.このことから,本県に流通する市販鶏肉類は,流通段階までに十分な食中毒リスクの低減が図られていないことが示唆された.このため,鶏肉類の消費段階におけるリスク低減策を優先的に進めることが重要と考えられ,消費者等に対する食中毒防止に係る啓発等を一層進めていく必要がある. 食鳥処理段階における調査により,山口県内の大規模食鳥処理場から出荷される鶏肉類がカンピロバクターに汚染されており,当該施設における次亜塩素酸ナトリウムを用いた冷却工程による消毒では,十分な食中毒リスクの低減が図られていないと考えられた.今後,施設の処理羽数や設備等の実態に応じ,消毒薬の種類,使用濃度や冷却時間等の衛生管理の改善が必要である.また,併せて,各生産農場における鶏の汚染防除策の検討を進めていく必要があると考えられた. 生産段階である複数農場の調査により,農場のカンピロバクター陽性率は中国地方が46.9%,九州地方が75.0%,サルモネラ陽性率は中国地方が84.4%,九州地方が89.3%であった.地域により,農場や鶏群の汚染状況,菌種や血清型,遺伝子型や薬剤耐性獲得状況等について特徴がみられた.このことから,鶏肉類の食中毒リスクの解明及び低減策の検討に当たっては,地域性を十分に考慮することが重要と考えられ,汚染実態を適切に把握するための体制の構築が必要である.農場及び鶏舎の汚染要因等の検討に係る調査により,鶏舎内外の環境や飼料等はカンピロバクターの侵入・拡散の要因にならないものの,入雛5~6週以降の感染した鶏の糞便等を介して飼養環境中に汚染が拡散したことが示唆された.また,サルモネラについては,鶏舎の敷料(発酵堆積糞)を含む飼養環境における菌の継続的な汚染が確認された.飼料や作業員等を介したサルモネラの拡散が示唆される結果も得られたことから,食中毒リスクの低減のためには,農場の飼養衛生管理マニュアルの改善や危害要因分析重要管理点(HACCP)に基づく衛生管理の導入による対策強化を図る必要がある.特に,敷料(発酵堆積糞)の衛生管理に係る重要管理点(CCP)を設定し,菌を完全に死滅させることができる発酵温度や時間の検証等が必要である. 食鳥処理段階や生産段階におけるHACCPに基づく適切な衛生管理の推進等のためには,行政の衛生部局や畜産部局,研究機関,事業者,消費者等の様々な主体による分野横断的な連携・協働の下,本研究で得られた知見を基に,鶏肉類のフードチェーン各段階において効果的な食中毒リスク低減策を講じ,食の安心・安全の確保を進めていくことが必要である.
作成者 : 山本 倫也 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2023-03-15
本研究は、慢性疾患児の多職種連携による支援の現状や養護教諭の多職種連携における役割について明らかにすることを目的とした。インクルーシブ教育システムにおいては、個別の教育的ニーズのある子どもに対して、自立と社会参加を見据えた教育的ニーズに応える指導を提供するため、多様で柔軟な仕組みを整備することが重要である。しかし、現状は学校と関係機関との連携体制が十分に構築されておらず、養護教諭の多職種連携における役割も明確ではない。そのため、多職種連携による支援の現状を把握し、多職種連携における養護教諭の役割について明らかにする研究が必要であるとの認識に至った。 本論文は4章で構成する。第1章では、研究の背景と動機や慢性疾患児に対する政策動向、文献検討から多職種連携による支援の現状や養護教諭の役割における課題について明らかにした。第2章では、4機関のヒアリング調査から養護教諭の多職種連携における役割の仮説モデルの構築を行った。第3章では、公立小中学校に在籍する養護教諭を対象とした質問紙調査から、養護教諭の多職種連携の成果に影響を及ぼす役割の検討を行った。第4章では、養護教諭の多職種連携における役割に対する知見を述べた。 本研究の結果、【教育的ニーズに対する支援内容】が【支援者間の合意】につながり、さらに、〈多職種・多機関との信頼関係の構築〉〈進級進学時の引継ぎ体制〉〈子ども理解や支援方法の広がり〉〈慢性疾患児の豊かな生活の保障〉といった【多職種連携の成果】に影響を及ぼしていることが明らかになった。 【教育的ニーズに対する支援内容】は、〈子どもの自尊感情を育てる関わり〉〈日常の観察と記録の分析による体調変化の察知〉〈特性に合わせた支援〉といった個別支援である。【支援者間の合意】は、〈発達の主体とした健康管理方法の獲得〉〈養護教諭の情報発信〉〈情報共有による校内支援体制の構築〉〈管理職の養護教諭に対する理解〉といった教職員や多職種と連携した支援体制づくりである。〈発達の主体とした健康管理方法の獲得〉は、【支援者間の合意】に最も影響を与えていた。慢性疾患児に対して自己管理のための保健指導や健康相談を実施することのみならず、周囲の子どもも支援者であるという認識をもち、慢性疾患児の理解を進める教育を行うことが求められる。 養護教諭には、コーディネーターとして多職種が共通の支援目標をもち規範的統合を目指した連携を促進するための役割を果たすことが望まれる。日常の観察と記録の分析により特性に合わせた支援を行うことや慢性疾患児の教育的ニーズに対する支援内容を発信し、管理職や教職員の理解を深め学校全体でチームとして対応できる環境を整備することが求められる。なかでも、慢性疾患児が自己の健康管理方法を自らが発達の主体として獲得することのできる支援を、多職種と協働して作り上げていくことが重要な役割である。
作成者 : 新開 奏恵 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2023-03-15
介護保険制度の導入や医療法の改正により、在宅療養が推し進められる医療状況の中難病患者の地域移行は急速に進んでいる。しかし在宅療養の現場では、難病患者の不満足や支援者の混乱が指摘されている。現状を打破し、難病法の目指す「新たな難病患者を支える仕組み」を作り、当事者も支援者も共にいきる関係性を構築するために、地域ケアシステムの実質化を図る必要性が示唆された。そこで、本研究では、地域での難病患者の長期在宅療養生活の実態を、その病状の変化に沿った形成過程を明らかにしたうえで、難病の地域ケアシステムを機能させる上での実質化の検討を図っていくことを研究目的として、4章で構成した。 第1章では、難病の地域ケアシステムに関する歴史と研究を概観した。そこでは、難病の地域ケアシステム構築への具体的な方策は明らかではなく、地域で生じている個別事例の課題を地域課題として捉える視点を持つことが指摘されていた。患者の変化激しい療養生活の問題をタイムリーに捉え対応することが重要であるが、難病患者の療養生活における実態把握がなされていない現実が明らかとなった。 第2章では、在宅療養を続ける難病患者が自分仕様の生活を再構築するプロセスを明らかにした。難病患者が在宅療養生活を継続していく為のポイントは、自己管理を頑張るだけではなく、必要な支援を得ることとのバランスをとり、長期療養生活に対応できる修正可能な自分仕様の生活スタイルを構築することであった。プロセスでは、医療従事者との信頼関係の構築や制度の狭間への関わりの有無が、患者の療養生活の質に大きな影響を与えていた。 第3章では、難病患者が在宅困難に至るプロセスから、在宅の限界を認識し離れ際を見極めようとする難病患者の姿が見いだせた。不安定な生活の度重なる再構築への対処に追われ、施設入所においても受動的な判断となり「諦め」が生じていた。 第4 章では、得られた知見から、地域ケアシステムの実質化について検討した。難病患者の地域ケアシステムでは、共通と個別システムの二重構造が必要で、相互補完をすることで、個別性の高い難病患者への重層的な専門的支援が可能になる。難病患者の地域ケアシステムの実質化が図られていくことは、難病のみならず、多様な対象をも包摂できるシステム構築に繋がっていくことが期待できる。
作成者 : 松元 悦子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2023-03-15
作成者 : 山本 幸子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2021-03-17
作成者 : 廣中 あゆみ 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2021-03-17
作成者 : 河本 乃里 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2020-03-18
作成者 : 鐘 俊梅 発行日 : 2015-03-13
作成者 : 田中 和子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2019-03-20
作成者 : 中村 敦子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2019-03-20
作成者 : 三谷 明美 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2019-03-20
作成者 : 原田 美穂子 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2019-03-20
作成者 : 箕越 功浩 出版者 : 山口県立大学大学院健康福祉学研究科 発行日 : 2018-03-20